『ヘンタイ・プリズン』感想
2022-02-26
# ノベルゲーム

感想を書きます。対戦よろしくお願いします。

https://qruppo.com/products/henpri/

紹介・感想(ネタバレ無し)

美少女ゲームブランド Qruppo によるビジュアルノベル第3作目。前作である『ぬきたし』については、第1作のみプレイ済み。面白かったものの、いまいち刺さるものはなく、続編はやっていなかった。

今作は舞台が孤島の監獄で、登場人物は受刑者と看守たち。全体的に暗めでダークな雰囲気がある。シナリオの内容としては、物語全体を通して、普通から逸脱した者たち、社会からドロップアウトしてしまった者たちの話をやっていた。この作品に出てくる登場人物たちは、皆どこか欠けているものがあり、そして欠けているゆえの魅力があった。

特に主人公の異質さは群を抜いていた。なんというか、人間っぽくない思考回路をしている。哲学がはっきりしているからその思考回路が理解できないということは無いのだけど、どうしたって表出する歪さがあった。しかし、根本のところは素直そのもので行動原理が分かりやすく、そしてその行動原理は最後までブレることが無かった。感情移入はしにくいが、芯があり、真っすぐで、そういう点ではとても自分好みの主人公だった。

主人公以外のキャラクターも魅力的で、とにかくキャラクターに愛着を持たせるのが上手かった。発明だと思ったのは、テキストの裏で会話劇をやるやつ。それはテキストウィンドウに表示させるほどでもない些細な会話なのだけど、そのなんでもないやりとりの積み重ねによって愛着というのはわくもので。

あとはテキストがわりかし大人しめになっていた。前作と比べて、いわゆる卑語や過度な下ネタを含むテキストは控え目になっている。普段はちゃんとしたテキストで、日常シーンとかの合間にQruppo節を炸裂させる感じの丁度いい塩梅になっていた。

シナリオも一転二転とツイストしていて読み応えあり。どの√も最後が若干勢い任せなところはあったものの、キャラの魅力、演出力でカバーされていたと思う。そして、とにかく登場人物たちの会話劇が面白いゲームだった。プレイ時間は60時間くらい。大ボリューム、大満足でした。

https://qruppo.com/products/henpri/

感想(ネタバレあり)

組長√

まずは組長√からプレイ。お手本のようなギャップ萌えが見事。なんというか、キャラの描写が丁寧で、ギャップ萌えはその副産物という印象を受ける。芯のぶれなさがあり、シナリオの都合で動かされている感じがない。あくまでキャラクター本位、キャラクタードリヴンの物語という感じ。

「本当は、ただ、なんでもない日常で、絵を描いて生きていけたらよかったのに」

組長√はここが一番ぐっときた。それでも、この人は自分の意志で家を継いだのだ。ドロップアウトした者たちの受け皿としての場を守る、父の背中を見て。

しかし、夕顔さんとの共闘が熱く、夕顔さん推しになってしまったので、このあとの個別√で夕顔看守長を倒すことの後味の悪さったらなかったですね...。

ノア√

この人のキャラ造形は本当にずるい。こじらせたオタクは全員紅林ノアさんが好きになるでしょう。デフォで敬語のところに二人称は「お前」なのが良すぎる。めちゃ最高といっても過言ではありません。この口癖も良いんだ。

姉を助ける一心でプリズンに入ったことが明かされるが、ソフりん側はノアを跳ね除ける態度。何か事情があってわざと冷たく当たっているのかと思いきや、普通にノアのことが嫌いだった模様。ノアのどこか異常と思えるほどの姉への執着が見えてきて、このあたりからさらに魅力が増した感がある。「自らを貶めてまで塀の中に入り、薄幸の姉を救い出す献身的すぎる妹」というロールに酔いしれるヒロイン。面白いキャラ造形だな~。

そして、医療室での対話シーン。ノアの語る言葉が、あまりにも空々しく聞こえてしまいつらい。言ってる側は真剣そのものなんだけど、相手のことをまったく理解できておらず、自分の頭の中の理想の姉に話しかけているだけで。

異常性癖そのものが悪であるとは思っていない。だがそれを許してはいけない。それをさせないために法と規制が存在する。超えてはいけない、人が敷いた規制線、人間としての一線。これは主人公にも刺さってくる台詞で、この言葉で初めて、この主人公は、紅林ノアは、まぎれもない犯罪者なのだということを認識させられた気がする。この一連の対話シーンが、このゲームをやっていて一番興奮したところかもしれない。

天才の妹と、凡才の姉。よくある構図ではあるけど、見せ方が上手い。ソフりん→ノアの感情の移り変わりもかなり丁寧に描かれていたな~と思う。最終的な着地点が「嫌いだった、これからも好きになれるか分からない。それでも、生きていてほしかった」なのも、なんとも姉妹っぽい関係性で良い。

個別√だと、ノア√が一番好きだったかも。ただただ、紅林ノアさんのキャラクター造形が天才だった。

あとはソフりんと樋口先生の関係性も良かった。樋口先生がソフりんを「友達だから」と言うのがしみじみと良い。大人になってからの友達って、なんか特有のエモさみたいなのがある気がする。監獄に来て間もないころのツーショット写真、これをイベントスチルに持ってくるのがまた最高なんですね。

千紗都√

個別√ラスト。組長√、ノア√でもちょくちょく出てきた千紗都さん。コミュニケーション苦手キャラかと思いきや、意外と誰にでも合うというか、他のキャラとの絡みで真価を発揮するところがあった。ふにゃふにゃした声でボケにツッコむやつ好き。

不幸な生い立ちに、健気属性。ここまで曲者揃いだったから、ストレートな恋愛描写が身に染みる。性格が暗いことを気にしてるのが意外でかわいい。筆談だと饒舌になったりするので、そちらが本来の性格なのかもしれない。

おっと思ったのが、バッドエンドについての討論。第三者や読者にとって正解の結末が、キャラクターの意に反していた場合どうすればよいのか。他人から見たら不幸せでも、本人が幸せだと思っているなら、それはハッピーエンドなのではないか。

実際に千紗都√の結末は、地下深く、閉じた世界で、2人だけで生きていくというもので、まさに限りなくビターエンドに近いハッピーエンドだった。これが一番美しい結末だと思う。

グランド

またこの4人でゲーム制作をすることに。それだけでもう最高で。個別√で一人一人を掘り下げて、満を持してみんなが集結する展開。結局のところ、ヒロインたちと恋仲になりたかったわけではない。この4人で一緒に何かをしたかった。19班が、4人揃っているのが良いんだ。

あらゆる会話が最高で、こういうのでいいんだよというテキストが永遠に続く。ノアと千紗都のやりとりも良かった。ヒロイン同士が仲良くなることは......とても嬉しい。

結局のところ、ずっと親に無視されていた主人公は、誰かに見てもらいたかった、構ってほしかった、自分がここにいることを証明したかった。だから露出を行った。主人公の中には何もなかった、本当に空っぽだったことに、地下での樋口先生との会話で気づく構成が良かった。

そしてラスト。脱獄を行い、青藍島にたどり着く主人公。正直この展開はまったく予想できていなかったので、やりよったな~~~になった。思い返せば、たくさん伏線は張ってあった。確かに、これ以上はないというほどの、全てが解決するハッピーエンドだ。この4人が楽しそうに過ごしていること。こんなに嬉しいことはないですね。本当に良かった。

総括

面白かった。本当に面白かったです。クリアしてから1日経ってこの文章を書いていますが、まだ余韻が残っている。これほどにこのゲームを楽しんだのは自分だけなんじゃないかと思うほど「良かった」に満たされている。

エロゲ界の衰退が嘆かれている昨今ですが、こんなに面白いゲームが2022年の今でも発売されているのだから、未来はそれほど暗いものでは無いのではないかと思いました。次回作も期待です。対戦ありがとうございました。

twitter: @hukurouo < thank you !