『なつくもゆるる』感想
2021-10-02
# ノベルゲーム

すみっこソフトによる『SF四季シリーズ』の第2作。

死滅回遊、捕食者と生態系、そして人類進化の物語。

あらすじ

夏休みの学園で見つけた、世界の終わり。

夏休みを目前に控えたころ、学園内で新型咽頭結膜熱という病気が流行し、2週間の間、学園から出ることを禁じられてしまう主人公達。しかし、ある日を境にライフラインが停止。教職員の姿もなく、心配になった一行は学園の外に出てみると、町全体が廃墟となっていた。

感想

ざっくりとネタバレに気を付けつつ。

前作に続いて、今作の登場人物もどこか頭のネジが外れた異彩あるキャラクターが揃っておりテキストを読むのが楽しい。表情差分がたくさん用意されており、浮き沈みする感情に合わせて表情がコロコロ変わるのが可愛くて良かった。狭霧紫穂さんのキャラ造形は天才のそれだと思う。

お話としては部長√が一番面白かった。生物は亜種を生み出す。それは理。それなら、どうして現生している人類はホモサピエンスだけなのか。進化には目的が無く、あるのは突然変異のみ。最高位捕食者となった人類は一体どのような進化を起こすのか。

ラストも綺麗に終わって良かった。良い作品でした。

考察+感想(ネタバレあり)

狭霧紫穂(共通√)は「世界の終わり」=良い事という価値観を持っている。で、この価値観はおそらく以下の2つに分解される。

現生人類の滅亡

紫穂(共通)は紫穂(上位)に作られた(体を与えられた)存在なので、思考回路としては主人公たちと近しいものを持っていると考えられる。おそらく、単純にただ生きているだけで他人を怖がらせてしまうのが辛いという理由で、現生人類が滅亡すると嬉しいという思考になるのだろう。

最初の方は自殺病と絡めて、世界の終わりという形で自死を望んでいるのかなとも思っていたけど、そもそも自殺病自体がミスリードでしたね。

ゲームでゴールになったら嬉しい

紫穂√で明らかになるのが、世界の終わりを喜ぶ理由が「ゲームでゴールになったら嬉しいから」ということ。世界の終わりをこの目で見れたらそれで満足、というのは何となくわかる気がするのでそこまで不自然な価値観ではない。神視点っぽい台詞だったので紫穂(上位)の価値観なのかなとも思ったが、紫穂(上位)は人類の存続を望む存在なのでそれはいまいち噛み合わない。

しかし主人公が「それは新たな始まりがあるからこその嬉しさではないのか」と返すと言葉に詰まってしまう。どちらかというと、世界の終わりを嫌がる理由が無かったという方が大きかったのかもしれない。

実際に主人公と世界で二人きりラブラブデートを経た後は「世界の終わりを延長しても良いんだぞ」と変化してしまうのも定番ながら良い。余剰宇宙への旅路の途中で退場しようとする紫穂をなんでもありになった主人公が引き留めるところも最高で、ご都合主義と言われようがハッピーエンドを描いてやるんだという強い意思を感じた。最後、狭霧紫穂さんの「ありがとう」で終わるのも印象的で、この作品は最初から最後まで彼女の物語だったなと。

そして、TRUEエンド後にスタート画面の狭霧紫穂さんの表情が笑顔になっている演出が本当に良いのだ。

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