良かった作品 2020年8月
2020-08-29
# 良かった作品

紹介 / 感想を書きます。

感傷マゾ vol4

『VRと感傷』をテーマにした、色んな人の文章が読める本。

座談会的なコーナーもあり、そこでは虚構エモという概念があげられていた。三秋縋作品や『秒速5センチメートル』などのいわゆる嘘っぽいエモさ、何度となく描かれることで完成された架空の青春のイメージ、麦わら帽子を被った白ワンピの少女的なやつですね。その虚構エモに自己嫌悪、自虐的要素、絶対に手の届かない過去に対する祈りが含まれることで感傷マゾになる、みたいなことが語られており、面白かった。「虚構エモが虚構であるがゆえに劣っているんじゃなくて、虚構だからこそ純度が高くて純粋で切実だという本物と虚構の価値転倒が魅力なんじゃないかな」という文章が良かったです。

この本には16本の短編小説が収録されているのですが、それぞれが様々な視座から感傷的要素を描いており飽きることなく楽しめた。特に良かったのが『しゅうまつによせて』という作品。VR世界で出会った男女が互いに少年と少女のロールを演じて、それが虚構と知りながらボーイミーツガールな物語を共犯的になぞっていくお話なんですが、これが本当に良かった。完成された青春のイメージそのもののような完璧な少女になりたかった女の子、とヒロイン側にも切実な物語があるのが良いです。二人ともインターネットにどっぷり浸かった拗らせ人間なのも最高。終盤あたりにこれぞ感傷マゾという場面があり、これが、感傷マゾの真髄…......…となりました。

ちょうどboothでvol1~3の紙版が再販されていたので、これ幸いと購入しました。届くのが楽しみだ~。

レイジングループ

人狼ゲームをテーマにした民俗学ホラーなノベルゲーム。

山奥の怪しい風習が残る集落に迷い込んでしまった主人公。村の伝統であるおおかみ様をくくる為の「黄泉忌みの宴」に巻き込まれ、自分が死ぬと5月11日の深夜に戻る「死に戻り」という現象に巻き込まれ、そして……。

とまあこんな感じのお話なのですが、これがま~~~面白かったです。30時間くらいで全コンテンツを読破したのですが本当にあっという間でした。どちらかというと民俗学要素というか、伝統に潜む謎を紐解いていく方がメインっぽい雰囲気がありつつも、人狼ゲームの奥深さ、面白さもしっかり描いてくれています。16人いる登場人物も、それぞれ上手いこと役割、パラメータを割り振っているなあという感があった。頭は良くても場を読むのが不得意だったり、器用に立ち回りヘイトを避けるのが上手かったり。実際に生き死にが懸かった人狼ゲームでは、推理力より何より政治的なコミュニケーションの上手さが重要になってくるのが面白い。

あとはキャラゲーとしても良かったです。やや気になるのは無理やり恋愛要素ねじこんでくるな~ということくらいで(ストーリーの都合上というのもあるのですが)、それぞれキャラが立っているし、掛け合いも面白い。若干会話のノリが00年代ラノベっぽいところがあり、懐かしい感じで楽しめた。登場人物の中では巻島春さんが一番好きだったかもしれない。懐中電灯の話で一気に持っていかれました。何気ない行動が当人にとっては本当に嬉しいことだったみたいなやつ、好きなんですよね。6章、本当に良かったな……。本編をクリアすると、各キャラの思考内容も読むことができる暴露モードというのが開放されるのですが、それもまた面白かったです。

ブルーロック

少年マガジン連載のサッカー漫画。いわゆる能力バトル的要素を前面に押し出しており、結構面白い読み味だった。とはいってもイナズマイレブンみたいな魔法的な要素があるわけではなく、天才的な個人技を持ったプレイヤーたちのぶつかり合いが能力バトルっぽいな~くらいの話です。

300人の中から絶対的な一人のエースストライカーを作り出す話なので、同じサッカー漫画の『アオアシ』とかと比べるとチームプレイや戦術などの話は少ないんですけど、『ブルーロック』は個人技にのみフォーカスを当てることで熱い展開をテンポ良く繰り出せている印象があるので上手いこと差別化はできているのかなと思ったり。

あとはまあやはり関係性が良いですね。登場人物たちはブルーロック(青い監獄)という施設に閉じ込められてサッカー三昧の共同生活をするわけですが、そうなると必然的に敵対心、羨望、嫉妬、憧憬、独占欲、様々な感情が渦巻き入り乱れる訳で。アニメ化とかされたら二次創作がめちゃくちゃ増えそうだし、何なら普通に読みたいよ、千切くんと國神くんの話とか……。

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